スポーツドリンク(イオン飲料水)の落とし穴
愛知医科大学 小児科 奥村先生の講演から
スポーツドリンクの飲み過ぎは 脚気、ウェルニッケ脳症の一因‼️
脚気もウェルニッケ脳症もビタミンB1(チアミン)の欠乏で起こります。
何故、スポーツドリンクでチアミンが欠乏するのでしょう⁈
その前に、そもそもチアミンとは何をしているものなのでしょう?
少し専門的な話になりますが、
チアミンは、生体内において各種酵素の働きをサポート(補酵素)して、クエン酸回路(TCAサイクル)と言われる反応がスムーズに回る手助けをしています。
TCAサイクルと言うのは細胞内にあるミトコンドリアの中で糖質を代謝し、生体内でエネルギー(ATP)を合成する経路のことを言います。
簡単に言えば、チアミンが欠乏すると生体は細胞の中でエネルギーを作る事ができない訳です。
スポーツドリンクには皆さんが思うよりも沢山の糖分入っています。
一方、チアミンなどは全く入っていません。
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結果、チアミンはあっという間に消費され糖を分解できなくなり、TCAサイクルが回らなくなります‼️
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チアミン欠乏症を発症することになります。
症状として末梢神経,視床,乳頭体,および小脳の変性を引き起こし、脳血流が著しく減少し,血管抵抗が増加します。
心臓が拡張することもあります。体液でむくんだ状態から筋線維が膨張,断片化,空胞化してきます。結果として足がむくみ、最終的に高拍出性心不全も起こります。
これらは診断が困難なだけでなく、助かったとしても後遺症を残すことが多い病気です。
チアミン欠乏症は栄養状態が悪い国の話くらいに思っておられる方も多いようですが、残念ながら現代日本においても対岸の火事ではありません。
その一つに、表題に挙げたスポーツドリンクの多飲があります。
スポーツドリンク多飲によるチアミン欠乏症は近年増加しており、日本小児医療保健協議会が3つの調査(全国実態調査、保護者意識調査、医師意識調査)を行ったところ、 33例のイオン飲料などの多飲によるビタミンB1欠乏症の情報が得られたようです。2歳未満の乳幼児が多く,家庭環境の問題が高率で、多飲は生後12か月未満に始まっていることが多く,1日の摂取量は1000mlを超えていることが多かったそうです。
転帰が判明した27例のうち1例が死亡し,12例に後障害を認めたとのこと。
熱中症対策や企業HPでスポーツドリンクを勧めているため、過剰評価され、良いと思っている親が多かったようです。
確かに、ある企業のHPなどでは「小さなお子様にも」とわざわざページを作ってPRしています。
さらに、FAQを見る限り、摂取量に制限は無く、糖尿病の危険性も無いという誤解をうみそうな記載がされています。何処にも多飲による危険性に言及した文面を見つけることができませんでした。
★企業の自主規制やメディアを利用した適切な情報提供が不可欠です。
一方、多飲に至ったきっかけは下痢、嘔吐を伴う感染症が多かったそうですが、そこに医師の不適切な指導があったことも見逃せません。
スポーツドリンクは基本的に清涼飲料水(企業HPにもそう書かれています)ですから、子どもであればジュース感覚で多飲に至ることはあり得ますし、保護者にも体に良いという認識があれば制限しないでしょう。
筆者の外来でも嘔吐、下痢時にスポーツドリンクやりんごジュースを積極的に飲ませている(子どもがそのようなものしか欲しがらない)という保護者が沢山おられます。その度に塩分を含まないジュースは脱水リスクを高めること、スポーツドリンクは塩分が少ない反面、糖分が多くジュースに近いこと、文字通り汗をかいたときの補給程度に考えた方が良いことを伝えてきましたが、多飲とそれに伴うチアミン欠乏症リスクまでは伝えてきませんでした。
つわりで何も食べられなくなった妊婦さんに点滴をしてチアミン欠乏症を誘発した例も報告されています。
筆者が研修医の頃、点滴はビタミンB1、2、Cが入れられた黄色い液体でした。途中から保険審査でビタミン補充は認められなくなり無色透明になりました。当時は深く考えずにいました。まして、その頃の嘔吐・下痢治療は腸管を休めなくてはならないからと点滴だけして3日以上絶食なんていうのもざらでしたから 食事や哺乳困難な乳幼児なら容易にチアミン欠乏をおこす危険性があったわけです・・・今更ながら怖くなりました。
因みに、嘔吐・下痢時の対応として手元に経口補水液がない場合は、味噌汁、ウドンの汁やインスタントの鶏ガラスープなどでも代用できます。
嘔吐が収まり次第 早期の哺乳や食事再開が望ましいです。
もちろん先の妊婦さんのように長期に亘って経口摂取できない場合は、点滴にビタミン補給は必要です。
医学の知識は10年で約半分が変わると言われていますが、これなんかもその一つでしょうね。