医原性の微量元素欠乏症にご注意を
ビオチン、カルニチン、セレン、ヨウ素 これらは微量元素と呼ばれています。
微量元素欠乏症という言葉はよく耳にしますが、具体的にどの様なもので、どんなことに注意が必要か…
近畿大学 虫明先生の講演から
今回、特にセレンとカルニチンにフォーカスして講演がありました。
セレンSeは抗酸化作用、甲状腺ホルモンを活性化(T4→T3変換)と重要な働きをしています。
セレンは魚介類、肉、卵に多く含まれて、野菜などは土壌の質に影響されます。
そのため、バランス良く食事や哺乳さえできていれば 通常は心配する必要はないということです (MSDマニュアルでは米国およびカナダのセレン摂取量100~250μg/日に対し,摂取量が30~50μg/日しかないニュージーランドおよびフィンランドでさえまれにしか見られないとありました)。
しかし、お米には少ないらしく、ご飯しか食べないような酷い偏食や管理栄養を受けている場合などで欠乏することがあり要注意です。
筆者が皆さんに知っていただきたかったのは
カルニチンについて
二次性カルニチン欠乏症は診断と治療ガイドラインが出ています。
裏を返せばそれだけ多いと言うことになるのでしょう。
カルニチンはエネルギーの元であるATPの産生に関わり、内因性解毒剤、抗酸化、CoAプール、殊に低血糖時の脂肪代謝に必須です。
特に幼少児は肝臓でのグリコーゲン貯蔵が相対的に少なく、カルニチンが欠乏すると発熱や絶食、飢餓などの時に脂肪酸の利用効率が上がらず、重い低血糖や神経障害をきたす危険性が高まります。
カルニチンは肉や魚などに沢山含まれていますので、特に日常生活で意識して摂る必要はありませんが、上記のような非常態になった場合に欠乏症の危険性がでてきます。
むしろ、近年増加している医原性カルニチン欠乏症が問題とのことでした。
牛乳抗原除去ミルク(俗に言うアレルギーミルク)にはカルニチンが含まれていないものが多く、ミルクだけで特殊栄養管理されている赤ちゃんは要注意です。また、抗がん剤、抗てんかん薬の一つであるバルプロン散(VPA)やピボキシル含有抗菌剤(ピボ剤と略します)はカルニチンの排泄促進などで欠乏症のリスクを高めることが知られています。
特に、ピボ剤乱用によるカルニチン欠乏症例は医療従事者にも認識が乏しく問題です。
どのような製剤があるかは是非調べてみてください。
筆者が大学に勤務していた頃(15年以上前になります)、ピボ剤が発売され、メーカーからの強い販促がありました。
しかし、医局にカルニチン関連の研究者がいて、乳幼児への影響を懸念して血中のカルニチンを測定していました。対象が集中治療室にいるような乳児だったとはいえ、ピボ剤を投与された児の血中カルニチンがわずか数日で著しく減少することが分かり、すぐにメーカーに危険性について問い合わせたようです。しかし、その時点では乳幼児への影響を全く把握と言うか検討すらしていなかったようで、数日後ようやく返ってきたのは「元々、小児への1週間以上投与は想定していない。」と言うあきれた回答だったそうです。
多剤耐性ブドウ球菌(MRSA)の発生も抗生剤、とりわけセフェム系抗生剤の乱用が引き金になっており、抗生剤適正使用への意識が低いとしか言えないエピソードとして強く印象に残りました。
個人的にはインフルエンザ流行期にピボ剤で脳症リスクが高まることを懸念していましたが、幸い今のところ大きな問題にはなっていないようです。
抗生剤を処方される機会がありましたら、何をどのような根拠で使用するのかを確認し、納得して使用することをお勧めします。