是非、知っておいていただきたいことがあります。
福島県で開催されていた日本小児感染症学会(2015/10/31-11/1)に参加してきました。
その中で行われた講演を紹介します。
長崎大学 森内浩幸先生による「母子感染:起こらないようにするために、または起こってしまったら、どう管理しますか?」という教育講演です。
かいつまんで報告します。
これから妊娠・出産を考えておられる方に是非、一読をお願いします。
その1)
TORCH(トーチ)症候群と言うのはご存知でしょうか?
TO(トキソプラズマ、Oを梅毒などOthersとすることもあります)R(風しん)C(サイトメガロ)H(ヘルペス)の頭文字をとったものです。
感受性のある妊婦さんがこれらの病原体に感染すると体内感染した赤ちゃんに水頭症や難聴、白内障など重篤な障害をきたすというものです。
その中でも最近、先天性風しん症候群が問題になりました。
マスコミでも大々的に取り上げられましたから記憶に新しいと思います。
ところが、トキソプラズマ(写真)やサイトメガロウイルス感染については、小児科・産婦人科の医師の多くがその実情を正確に把握・認識できているとはいえず、十分な啓蒙を行えていないというものでした。そして、その結果として信じられないほどたくさんの子どもたち、親御さんたちが苦しんでいるというものでした。
私も含め多くの医者は、典型的な奇形症候群を持って生まれてくる赤ちゃんをTORCH症候群として認識していますが、感染する時期によっては生下時には問題がないように見えていても、難聴や発達の遅れなど様々な障害が年余を経て顕在してくるというものでした。
つまり、その時点ではもはやトキソプラズマやサイトメガロウイルスが原因であったと認識していないというものです。
自閉症や精神分裂病の一部(あくまでも一部です)にもこれら病原体の胎内感染が関与している例があるそうです。
では、予防をどうすればよいか、不幸にして感染してしまった場合はどうすればよいか。
詳しい内容を書き綴るととても紙面がたりません。
是非、以下のHPに目を通して下さい。
このHPの記事を目にして、私は本当に自分の不明を恥じずにはいられませんでした。
その2)
ATL(成人T細胞白血病)感染症についても講演されました。
ATLはHIV-1ウイルスによる感染でおこりますが、赤ちゃんには母乳を介して感染することが知られています。
最も安全が高い対策(残念ながら100%ではありませんが)は完全人工栄養にすることです。
しかし、母親として母乳をわずかでも子供に与えたいというのは当然の心理です。
短期(3ヶ月未満)授乳や凍結母乳という選択もありますが、短期母乳育児を選択されたお母さんたちの少なからぬ方が断乳の厳しさに負け、最終的に子供をHIV-1に感染させてしまい、自分を責め苦しんでいるというものでした。
当然、凍結母乳についても人工栄養ほどの確実性はありません。
実は私が乳児検診に伺っている産婦人科でも何例か経験がありました。
すべての方に人工栄養を強くお勧めしましたが、そのうちのあるお母様は頑として凍結母乳育児を選択されました。
残念ながら、私たちには拘束力はありません。
悔しい思いはしましたが、その後の転帰は把握できていません。
多くの例で子どもが感染してしまい、お母さんが自らの負い目から医療機関受診を避けてしまわれるのだそうです。そうでなかったことを祈ることしかできません。
ただ、今回の教育講演の後であったなら、違った結果を導き出せていたかもと思うとやはり悔しいと言わざるを得ません。